「神戸市北区の家」

延床:102㎡ 木造2階建て

施工:あかい工房

床:チーク、コルクタイル 

壁:砂漆喰、珪藻土、タイル 

天井:ラワン合板、クロス

陰翳のある暮らし

「洞窟みたいな家でもいいかなあ・・・」
打ち合わせのときにご主人がふと口にした言葉が印象的でした。北欧の家ってとても暗くて人がいる場所だけに灯りがありますが、日本ではなかなかそういった感覚は受け入れられない・・・
「ほんとにいいんですか?ダクトレールつけときましょうか?」と私が聞いたら「天井が美しい方がいいんでなくて大丈夫です」とのこと。私より年下のクライアントでしたが、きちんとした価値観があってすごいなあと関心したもんです。

はじめての打ち合わせはにしむら珈琲でのんびりお茶を飲みながら。その後まだ敷地が決まってなかったのでこの土地ならこんな家が建ちますよと神戸でも須磨区、灘区、北区など様々な敷地条件で小さい敷地だとこの価格でこんな家、大きい敷地だと多少不便な立地にもなるけどこんな家などいろいろプランを出しながらどういった暮らしが自分たちに合ってるか検討しました。
全然北区でも大丈夫ですよ。とのことだったので土地がまだ比較的安くて広い北区で探すことに、北区の自然のある暮らしが好きで住んでいる自分からしたらとても嬉しい話です。

また、過去にした物件を見に来てもらい私がコツコツ左官を塗ったマンションを見に来たときに左官の家の空気感っていいよねえと暮らしのイメージが共有できたので左官の家を目指すことに。
LDKは砂漆喰ですがほんとにいい表情です。メインの空間は左官職人に工事をしてもらい、個室などは一緒に珪藻土を塗ったりしながらほぼ左官の家ができあがりました。

この家、最初は違う敷地に建つ予定でした。その敷地は南側にLDKが向いていたので南側に大きい窓を持ってくる予定でしたがその土地が売れてしまい・・・困ったなあというときに偶然見つけた土地が今の家が建ってる敷地でした。
その偶然見つけた敷地の特徴ですが、北東側に景色が抜けて遠くに山を望むことができたのでそちら側の角にコーナー窓を設け、またダイニング前の北側に大きなウッドデッキを設けることで庭や遠くの景色とつながるようにしています。
メインの開口が北側を向いてるので南側から光が取り入れられないというデメリットありますが、LDK上部に木製の室内窓を設けることで南側からの光も取り込むということを可能にしてます。
最初違う敷地に建てようと思ってつくっていたプランがまったく異なる敷地でしっくりはまるというなんとも珍しいパターンでした。

敷地の北側に庭ができることで南からの光が植物に当たり室内からの景色は美しく見えます。
もちろん北側に見える山々も南からの光を受けて多様な表情を見せてくれます。北向きは家に光が入らずよくないように思いますが、そうしたいい面もあるので一長一短です。
また南から光が燦々と入ってくる家ではないので断熱性能は北海道~東北レベルとし、安心して暖かく暮らせるように配慮はしています。
植物は若生植木農園に一緒に見に行き選んだ木をあかい工房の社長さんである赤井さんに植えてもらいました。
赤井さんが植えてくれた骨格を活かしつつ、植物を徐々に増やしながら庭のある暮らしを楽しんでおられます。

この家に来ると感心するのがいつも家の中に花があります。お茶も気軽に楽しんだりするそうですが、家の外にも中にも植物があり、そして穏やかな左官の壁に包まれた暮らしをしている。
老後ですか・・・という感じですが、この家のクライアントのように若い人ほどこういう暮らしをして欲しいなあなんて思います。
せっかく家を建てるのであれば、豊かな時間を感じてもらいたいしその経験が長いほどいいなあとは感じますので。

陰翳のある暮らしとはなんだろう。そもそも陰翳という言葉は光の当たらない影の部分を指しますが、物事の色、音、調子や感情に趣があること。という意味もあります。
建築はかたちをつくるために陰翳というと暗いところにトップライトからばーんと光が落ちてくるようなイメージにつながりそうですが、私は「調子や感情に趣があること」ということを大切にしています。
そしてそうした家にするために敷地に対する建ち方、窓から見える景色をどうするか、庭とのつながり方、素材のあり方など様々な要素を意匠的な部分だけではなく多様な要素がすっきりと納まりつつその要素が穏やかな空気感になるよう設計で細かな調整をしています。

家は視覚に寄りがちにはなりますが、暮らしの背景を支えるものであって欲しいなあと思ってます。
そのさりげなく佇んでくれるくらいの建築、そうした価値観のある家に住む良さを多くの人に知って欲しいなあと、この家を見ると感じたりするもんですねえ。