「洲本の家」

延床:104㎡ 木造平屋建て

施工:浜口工務店

床:オーク無垢、コルクタイル 

壁:土佐漆喰、フェザーフィール、タイル 

天井:ペンキ、ラワン合板

土佐漆喰の平屋

最も思い出深い家はどれですか?と聞かれたら迷わずこの家と答えます。
独立して初めての仕事はやはり思い出深いものですが、なんといってもこの家で触れた本物の左官の世界が今の仕事につながってることもあり、自分の進むべき道が見えた家だからかもしれません。
やはり原点というものは感慨深いもんです・・・

さて、この家を設計した時に家の真ん中にあるLDKが大きな屋根に包まれ、このおおらかに包まれた場所が家族それぞれの居場所になればなあと計画をしました。
そのみんながなんとなく集まる場所を包容力のある空間にしたかったのでどういった材料が適してるだろうか・・・と考えたところ、素材に力のある土佐漆喰を使うことにしました。
土佐漆喰って左官の中で最も美しい材料と私は勝手に思ってますが、最初は薄い茶色からクリーム色へと色が徐々に変わっていく不思議な材料です。
生命力があって奥行があるというか・・・その表情の深さがつくりだす落ち着きって何物にも代えがたいなあと。

そんなちょっと変わった材料ですが、左官といっても下塗り、中塗り、上塗りと3回塗りが必要なためとても手間のかかる材料です。
また土佐漆喰自体も藁を発酵させてつくられた材料で長い時間をかけてつくられたものになります。やはり時間の経過を感じる素材って魅力的ですし、その時間によってできた表情が空間に与える影響って大きいなあとできあがっていくと感じたものです。

土佐漆喰を塗ってくれたのは総合建築植田の左官チームです。左官って今までいろんな現場で見てきましたがここで見た左官は別物でびっくりしたものです。
家づくりに関わってくれる職人はみなさん素晴らしいですが、職人の中でもほんとに技術がある方達、また技術だけでなく人としてのふるまいがほんとに素晴らしくて・・・こんな人たちに左官を塗ってもらってその家に住めるなんて、なんて幸せなことなんだろうとしみじみ思ったものです。

スタッフ時代はこうして一日中現場を見ることってなかったですし、最初から最後まで通して職人の仕事を見ることで家って職人がつくってくれてるんだなあと実感ができたように思います。
そうした実感を持てるようになったのも設計士としてよかった点ですし、今では職人に自然と敬意を持って接することができるという、そうなると現場に行くのが楽しみなのでこの仕事を楽しく続けることができるきっかけになったのかもしれません。

休憩中に談笑されてる感じもほんとに素敵です。
こうして自然素材を使って仕事できるのって何より楽しいと言われてましたが仕事に誇りを持ってされてるということ、そうした職人に家をつくってもらうことの価値っていいもんだなあと。


日々自分の仕事に対して向き合い、よりよいものはなにかと経過してきた時間が左官の壁などは表情として顕著にあらわれるもんです。
民芸っていいよねと言われたりしますが、まさに私にとってはそうした時間が現れてくることは民芸であるし、見た目だけではない純粋な空気感がでることは自分の建築には欠かせないものだなあと思っています。

建築としておもしろいものと居心地がよい家はバランスが難しいとは思いますが、私はやはり住み手が居心地よく暮らしてくれるのがなによりだなあと思ってます。。
そういう気持ちになったのも、この家で出会った人たちのおかげなんだなあと今となっては思うもんですねえ。