「豊中の家」

延床:95㎡ マンション最上階

施工:ビームスコンストラクション

床:カンヌグリ、マーモリウム 

壁:EP(KOBAU下地)、タイル 

天井:EP(KOBAU下地)

スーダラ節

ハナ肇とクーイジー・キャッツの1stシングルといえば「こりゃシャクだった」でこちらがいわゆるA面だっだそうです。
そのシングルのB面が「スーダラ節」なわけで実はB面の方が名曲よね・・・みたいなことってありますが、この家は森本設計のいわばB面の家になります。


で、なにがB面なのかと言いますと、建築家っぽい技術をいろいろとこの家は使ってまして、どちらかというとそういう技術たくさん持ってる方なのですが?お客さんの要望もありそちら面で仕事しています。
ちなみに在宅ワークしてるこの二人、ご主人は大学の同級生、奥様は大学の後輩でして二人とも仲良しなのですが、そういった二人の家でございます。


で、また少し話を飛ばさせてもらいますが、そもそも私が建築をしようと思ったきっかけの話になります。
高校3年生の春頃にテレビでビートたけしが色の魔術師に会いに行くという2時間くらいの特番がありまして、その番組でたけしがメキシコに行きルイス・バラガンの建物を見に行くというコーナーがありました。(他のコーナーはジブリの保田さんに会いに行くもありました)
将来どうしようかなあなんて思ってた時期でもあり、その番組を見てなんだこれは・・・とびっくりして建築という仕事をしてみようと思ったわけです。
(アアルトが好きなように思えて実はルイス・バラガンが一番好きなんです。)

そしてとりあえず極力楽して建築士の資格がとれるところを探したところ母校の大学に流れ着き、そこで出会ったのがこのお二人でした。
その母校ですがちゃんとした建築学科でもないのでこれからどう勉強するもんなのかしらと思ってたところ彼に出会い、安藤忠雄の『建築を語る』を貸してくれたり2回生の頃から勝手に研究室に一緒に行ったりしていろいろ見る世界を拡げてくれた恩人でもあります。
特にはじめて読んだ建築の本が『建築を語る』だったのは体験として大きくて、とにかく建築は実物を見ること、人生の唯一の師匠は旅であるという感覚は今にも続いています。
安藤さんを真似てではないですが、軽自動車に寝泊まりしながら日本の現代、近代、古建築、民家を見て回ったり、海外では夜行列車で移動し朝から一日中とにかく街を歩き続けるといったことをしたりしてました。
ミーハーな考えですが・・・その時ずっと建築のことを考えてたことって今に生きてる気がするもので、その世界を見れたのも彼のおかげかも?です。




そんな彼はスーパーゼネコンに行き、奥様も某照明メーカーで照明デザインしてたりしてお二人は社会の荒波に揉まれてスーパー社会人になったわけでして、かたや私はのんびりと今に至る・・・どちらがハナ肇でどちらがクレージー・キャッツか分かりませんがまあみんなの意見がいろいろと融合してこの家ができています。
余談はこの辺にして、この家の特徴ですが雁行・回遊平面と光と影によってできる奥行に尽きるかなと思ってます。

「あの人、奥深いよね」とか言われると嬉しいもんですが、奥の概念っていいもんだなと思います。
例えば、トンネルの先に緑が広がってるような、暗いところから明るいところを見ると明るいところが美しく見えることがあると思いますが、この家はそういった感覚がいろんなところにでてきます。
雁行平面であるがゆえに光だった場所が動くと影になり、また回遊平面もあるのでその感覚がどんどん切り替わるという不思議な家になっています。


奥深いとは言っても神社の奥が無くなるように奥はどこかで消失するという感覚はあるかなと思いますが、この家の奥はさっきまで奥だったとこが手前に切り替わってまた奥が現れるというところがミソかなと感じます。
その切り替わりに効果的に効いてるのが壁の2色の白で、この家は「グレーっぽい白」と「薄いブルーの白」がありますが動きとともに光と影の加減でさっきまで違う白だったものが同じ白になったりします。
これは個人的には驚いた部分ではありますが、白が近づいたり遠ざかったりほんとに不思議な体験が起こってます。
狙ってしたのかと言われるとまったくそうでもなくて、当初の考えは外周部の窓がついてる壁「グレーっぽい白」と、収納や個室が入ってる部分の壁「薄いブルーの白」を分けることで、収納や個室が入ってるボリュームに挟まれて生活する空間があるというものでした。
その隙間があるところはリビング、あるところはダイニング、あるところはちょっと幅広な廊下と空間ができるわけですが、その隙間の居場所から外を見たときに感覚としては外周部の壁は開口があることで壁が弱まってるので「グレーっぽい白」の壁と外の景色が同じようなものに感じて意識が外に広がるという狙いでしてたものです。(こういう屁理屈感も建築家っぽいでしょう。)

マンションの最上階でルーフバルコニーもついてることから当初のイメージは戸建のようにも感じていました。
また、近くに飛行場があることから空を飛んでる飛行機も窓から近くに見ることができたりして空に浮かんでいる戸建のようなイメージもあったり。
そうしたイメージからマンションの最上階で浮遊しつつ外に空間がつながっていくような雰囲気があったので、床と屋根が強くあり、室内に居る時に外周部の壁が弱まることですーっと意識が外に流れていくといいかなあと思い設計したという経緯があります。
その感覚ももちろん残ってはいますが、奥が切り替わるという別の面でおもしろい部分がありましてという・・・。
まさに「こりゃシャクだった」が売れると思いきや「スーダラ節」の方がいいよねの感じなわけですが、意図せずできあがったものでも次こういうおもしろさがあるならば次からはそうした感覚も狙えるなあという、いい経験になったのかもしれません。


で、意図してなかったシリーズですが窓のある開口部とそうでない開口部を分けるために外周部に壁面収納がたくさんできてますがこれが実に便利で、ワンルームの道のような空間の中に収納が点在しており、またその収納が大容量でいろいろ入るため子供がいる家庭でも楽に暮らせるという点も意外でした。
その収納の中には幹太くんもあってキッチンのすぐ目の前にありますが、マンションでも工夫して幹太くんを設置してあげるとほんとに便利とのことです。かっこいいだけでなくてきちんと生活できるというのは大事ですので。
ちなみに、幹太くんの隣の扉の中はトイレが入ってたりしますが、そういう扱い方もなんだか建築家っぽいですねえ。

と、巾木のディテール、見切りのディテール、建具のディテール、納まりに関しては特殊なことをたくさんしていて書き出すとキリがないので飛ばしますが、こういう空気感にしたいに対していろいろ使える引き出しがあるといいもんだなあとは感じたものです。
世の中的にはこういう家の方が建築家っぽいA面?なのかもしれませんが、私にとってはB面なのかもしれないですねえ。(普段の仕事は建築家っぽくない点あるので)
でもまあ、スーダラ節みたいな感じで、植木等さんが麻雀してる時にスーイスイというのがおもしろいね、それを歌にしてB面に入れとこっかというような意図せずできあがった部分もあるもんです。
もともと3人が持ってる変なとこが影響してなんだかいいとこに着地したのか、できあがったものはとーってもおもしろくていい家だなと思いますのよねえ。