「朝来の古民家改修」

延床:148㎡ 木造2階建て

施工:桂野工務店

床:和栗無垢、杉無垢、コルクタイル 

壁:珪藻土(白・ベージュ・茶)、和紙クロス、タイル 

天井:桐、ラワン合板

風景が家になる

朝来に初めて訪れたとき、山東インターを降りて広がる景色になんて美しいとこなんだろう・・・と心が揺さぶられたのが昨日のことのようです。
田舎へ移住するという選択肢が増えて、景色のよい田舎っていいよねと関西圏から小一時間くらいの場所の人気が高まってるなあと感じます。
景色いいよね、都会から来ると癒されるよねという感覚と、風景という感覚は私の中では少し違っていて、ちょっとおしゃれ化してる田舎と今もそこに住んでる人が土地に根付いてる場所ってなんだか違って見えます。

それはダーラフローダの美しい村を訪れた感覚とも近い部分があるのですが、私自身少し内向的な性格もあって朝来のしっとりした風景の感覚がとても肌に合った気がします。
民芸とかもそうですが、その土地でそのままできてきたものって好きなのかもしれません。民芸でも指導が入りデザインが入ってくるとその雰囲気が変わってしまったことがありますが、やはりできるだけそのままであることが風景という感覚に近いかなと。
そして、現場に何度も来るときにその風景を感じながらその土地の感性が家の中にでてくるという設計ができ設計技術がひとつ違ったものになった感覚があり、北欧の建築家やデザイナーがものをつくる感覚に近い部分がでてきたのかも・・・とも思ったりしたものです。


さらに取り壊して更地として販売する予定だったこの古民家を抑えれたことが大きくて、南に大きな縁側のあるこの家の魅力が素晴らしいという点もあります。中の間取りも回遊性があったり既存の間取りをあまり動かしてないですがとても過ごしやすいです。
壁はもちろん土壁ですし家がほぼ自然素材でつくられているので、その既存の状況に合わせて設計すると自然と素材も限られてきます。
打合せの時にカタログもほぼ持って行かずでこの空間に合うものを考えると自然とこの空気感になりましたが、土地に根付いて建っていた家に素直に設計することで内部の空気感はただ自然素材を使ってますよという雰囲気だけではない心穏やかになるよき風景を見ているかのような質を持っています。

また次の空間を作るときに既存の空気感も大事ですが次に住む住まい手の感覚も大事です。
ここの住まい手の感覚は持ってるものや好きな音楽、はたまたちょっと笑いの感覚?とか似た部分が多かったのでとても話をしてても仕事がしやすかったなあと。
建築家を探してるときにいろいろな方のホームページやつくってるものを調べたそうですが、素敵な家だなあと思っても家としては素敵だけど自分たちが住む家としてはどうなんだろう?と思ったそうです。



たしかに多くの設計事務所はWORKSに○○の家、建築写真家が撮ったかっこいい写真がどーんみたいな感じですし、設計士の好みの雰囲気が前面に出てたりもして、自分たちのこうしたいというバランスと合うのだろうか?という感覚はあるだろうなあと。
それに、これはふつうのことですが設計事務所としては仕事としての範囲が決まってるので、図面を書いて工務店に見積もりを取り金額がでてその家ができるというのが通常の流れです。

いいのか悪いのか分かりませんが、私の場合はよりよい家に住んで欲しいなあと思うので、できることは現場で作業して自分がこの人のためにここまでしたいというラインを決めれるようにしてます。
この家をするにあたりお客さんの設計士に対する敬意とか、仕事をすることへの感謝など、変わった仕事の仕方をしてきたけどこういった気持ちで接してもらえるのなら今まで頑張ってきた自分のやり方もいいところあるなあなんて思ったもので必要以上に作業をしてしまったもんです・・・(乗せられやすい褒められると嬉しい単純な人間なので)


そうした人の気持ちを動かす施主力が高いというのもこの家の特徴ですが、気持ちよく接してくれる人の家って現場も頑張ろうとなりますし、文句ばかり言ってる、信用していない、または自分の都合ばかりの方の家はそれなりにしかならないもんです。(どの仕事でもそうだとは思いますが)
そういう点で、家の仕上がりというものは人となりが大きく出るものですし、うちの設計はただ図面ができてきれいな家ができるというものでもないので環境や人に左右されるのかもしれません。

そうした見方によっては誰でも同じように接するのが当たり前のことで気分に左右されるのは不誠実では?と思われることかもしれませんが、人を大事にする人にはそれだけ応えれる人間でいたいという感覚は大事に持っていたいなあと思っています。
あまり普段はそういうタイプではないですけど、こと仕事においては義理と人情は大事だなと思ってる方ですので。


とまあ、頑張ったかいあってほんとに居心地がよい家になっています。断熱改修もばっちりしてるのでいつもしている新築よりもむしろ暖かいくらい・・・
お風呂も板張りでホーローの浴槽だったり、キッチンはモールテックス+ホワイトアッシュ無垢だったり、使ってる素材も家すべてが左官だったり無垢の木だったり木製建具だったり、質の高いもので構成されてますがほんとに嘘みたいな金額でできてるので私もこんな家住みたいし・・・なんか、ずるいなと密かに思っています。

でもまあ、いい人って最終的には得するよなあと家づくりをしていると常々思います。
それもこれも、数ある事務所の中からうちを選んで私の雰囲気を見抜いていたからかなと感じますが、よき理解者によき建築で応えることができてこの空気感を出せるようになったことは私にとっても大きな転機だったように思います。ほんとに朝来の美しい風景が家になったような素晴らしい家で、そういう家をつくれるようになったのって嬉しいもんですわねえ。