「西宮のリフォーム」

延床:141㎡ 木造2階建て

施工:新野工務店

床:オーク、アッシュ、バーチ、サイザル、カーペット、タイル、コルクタイル 

壁:砂漆喰、クロス、タイル 

天井:チーク、土佐和紙、クロス

オムニバス

さまざまなものが集まって一つのものになっていること。
映画やCDや作品の定義としてバラバラなものが一つになってる感覚で使われてることが多いですが、もともとの意味としては「何の御用にでも役立つ」「全ての物の為に」といった感覚もあるようです。語源は乗合バスからきているようなのでどうぞお気軽にという感覚です。
リフォームをする時に私はあまりすべてを変えるということはしないし、もともとあるものでもいいなと思うものがあれば使うようにしています。
家として成り立つときになんでも新しくするのではなくみんな参加してきてね。というゆるめな感覚。

この家の特徴としては、材料を先に決めずアウトレット品であるもので構成されたらどうなるか?を考えてます。
床のオーク3mm3層フローリング(3000円/㎡)、天井のチーク2mm3層板(3000円/㎡)にはじまり、階段のサイザルカーペット、2階の個室の絨毯、フローリング、壁の大谷石もアウトレット品です。
アウトレット品なのでまとまった数量は手に入りにくいし、材料としてはいろいろ組み合わせてるのでバランスが悪くなるようにも思いますが、どの材料がきても大丈夫なようにバランスを考えて建築を組んでいってます。

自分の設計の特徴ですが、なにか要素が強く出すぎないように、ただ素材がいろいろでてきたとしてもその素材の薄さ、厚さ、軽さ、重さ、小ささ、大きさをきちんと考えて扱うことでただそこに在るという感覚をつくっています。
そうしてただそこに要素が在ることで見えてくるものは庭の植物が風にゆらゆらしてることだったり、ささいな音の変化だったり、予期せぬところから入ってくる光だったり、どちらかといえば現象のようなものが見えてきます。

空間をミニマルにして浮かび上がらせる方法もありますが、真っ白な空間に窓があって庭の植物が白色の中に浮かび上がり、トップライトから光が入ってきて空間がうつろいますといった建築家っぽいものとは違って、要素はたくさん在るんだけど現象はきちんとみえるように考えています。
要素が少ないと話としては簡単で誰でもできるよな・・・という感覚があるし、例えばバラガン邸とかを見に行くと写真のイメージだけでミニマルと思ってる人もいるけど実際はいろいろな要素がバランスよく配置されてひとつの家として心地よくなってるのがよく分かるもんです。

永田昌民さんとかもそうだったと思いますが、庭のようなシークエンスの感覚があって、そこにいろいろ出てきたとしても心地よい流れというか、芯の感覚はきちんと残るよう意識しています。
そうした自分の芯となるものがきちんとありつつ、その芯のある筋道の中で話ができあがってくるような。「何の御用にでも役立つ」「全ての物の為に」がもともとのオムニバスであると書きましたが、その構成されるものの範囲が切り捨てるわけでもなくきちんとその場に在り、どう存在するかをきちんと考えてあげることでその家の輪郭になるんだろうなあと。

そう考えると最近の興味はバラガンや永田さんのような家の中も庭のような空間、また、アアルトのようなバランスの取り方が混ざったような空間が理想となっていて、この家はそういった感覚に挑戦してみた感じもしています。
わりと山道みたいな感覚で、木が生い茂って暗いところもあれば視界が開けて明るいところもあり、水が近くにあればじめっとした植物が育ち、光がよく当たる木はいい色がつくし、石だらけの道、落ち葉が積もって柔らかな道。
いろんな感覚があるけれど狙っておもしろくつくるのではなくできるだけ自然に存在していて、この道を進んでいけば楽しいかな?筋が通ってるかな?という気分で道自体はゆるくつくることが大事なのかもしれません。

最近、建築をつくることはそうした道を見出す作業なのかなという感覚もあります。
どう見出すかは人によってさまざまな技術がありますが、自分の場合はできるだけ道が目立たず経験や印象が残るように心がけています。たくさんのそうした経験や印象が乗り合ってるような状態って豊かなのかなあと思いますし。

そんなおおらかな乗り合いバスみたいな雰囲気がこの家にはあるので、なんだか居心地よく過ごせるのかもしれません。
すべてが堅苦しく決められていて、すべてが美しく妥協無いもので設えれた空間って息苦しいもんで・・・許容できる幅が広く、懐の深い空間であるほうが豊かに暮らせるのかなあと。
私だったらそんな少しくだけたオムニバスな空間に身を委ねつつ暮らしを楽しみたいなと思ったりしてるので、今回のバランスを取る挑戦はいつもより幅が広くて難しかったですができあがった空間の雰囲気をみてるとよき答えが出せたのかもと感じたりしますねえ。