アアルト自邸について(外編)
アアルトの映画を見てからアアルト熱がでてきてしまったのでいろいろ本を見てますがやはり素敵だなあ・・・
映画では大きな建物の方が紹介されてたように思いますが個人的には住宅がやはりおもしろいなと。その中でも自邸は撮ってる写真が多いのでなぜこの自邸が居心地よいのかという点や家をつくり考える上でアアルトが用いた技術的な部分をいろいろ紹介してみます。
①まず外観の開口部から、左上の写真はとても気に入ってますがアアルトらしさが出てるバランスです。よくこうした窓の上下で切り替えをしたりして特徴を出すのですがこの窓は換気口?や自然石などの要素も相まってとても美しいです。例えば、木の扉がありますがその向かって右側の窓が無かったとしたらドアとコンクリが同じ高さでぶつかってしまい木の扉がコンクリに負けてしまいます。そうなると換気口?がコンクリにぽつんとなってしまって設備の要素がなんだか目立ってしまう・・・となりますが木の扉の右側に窓がくることでコンクリが弱まりながら換気口?と自然石につながるバランスが保たれてるという将棋でそこに一手置くか・・・というような絶妙な一手です。
②自然と納まるという点では、木は釘で止めた方が反りも少ないし長持ちするという点で木の扉の表面にくぎ打ちしています。モダニズムの流れからするとこうした木の扉もいかにして面にして見せるか?となりそうですが、アアルトにとってはどうでもいいことなんでしょう。窓も少し奥に入ってます。
③窓が奥に入ってますが、壁(コンクリ、白煉瓦)と窓は分離された扱いです。壁の面が一番前なので結構大きく強めに出てきますが、アトリエの大きな窓の上は白煉瓦をなくして壁を落とすことで窓の要素が屋根までつながっています。こうすることで壁が分断され弱まってこの壁面の圧迫感がなくなり少しやわらかい表情になります。
④そうしたやわらかさの感覚ですが、コンクリと白煉瓦は物性的に角でしたが、木の壁の部分の窓はアールで処理していたりします。端部の処理はアールとしてルールを決めてしまうとコンクリや白煉瓦もアールに削ったりする人もいるでしょうがそういった簡単にルールを決めて決めたらなんでもかんでもという扱いをアアルトはしません。この大きさに対してどうだろう、設備の要素が入ってきたらどうだろうといったように問いかけることとそれが素材のあり方にとって自然であるか?という点に素直であるかが重要であるように思います。
⑤すでに文章長くなって読むのめんどくさいな・・・となってそうですが、自分用にメモを兼ねてるのでしばしお付き合いを。自然石がぽつぽつ飛び石となって下草に覆われた庭ですが、正面の壁に植物がもさっと伸びていってます。壁面にもし植物がなかったら建物の輪郭がもっとはっきりでていたでしょうがそれを望んでないのがアアルトらしいです。
⑥植物がなぜそこまで壁面に伸びるかというと、写真のような感じで細いポールが壁面についてます。この壁は緑が欲しいなあというところにアアルトはポールをいれていきますが、建物と緑の関係はある程度狙ってできています。
⑦植物は自然のものですが、建材の木も色が変わったり、雨風にさらされて朽ちていったり自然のものです。床のコンクリートの目地に木を使っていますが朽ちるのを想定して使われています。もっと朽ちない素材を選択もできたのでしょうが、壁面に緑が伸びていくこの場所で床がドーンとコンクリだったらちょっとな・・・と思ったのかもしれません。
⑧かといって、なんでもかんでも自然のものを使うというわけでもなくて、天井は金属波板です。自然素材だけと括ってしまうと板張りとかになりそうですが、おそらく異なった質感とこの薄いグレーの色合いと波板の線のピッチがこの場に合うということで選ばれています。少し戻り⑥の写真をみてもらうと分かりますが、正面の白い壁と右の白い壁は縦の線のピッチが異なっています。正面の壁は植物を這わせるポールがついてるのですが、これに合わせて細かいピッチになっています。壁面に二つのピッチができるのですが、これで天井に同じように板張りをしてしまうとどのピッチに合わせるのか?となってしまうので線の入り方が波板になるとアールの線になることから壁とは違う要素となり、またその金属のグレー感がその違いの感覚を増す要素となっています。
⑩この家、2階は黒い外壁なんですが、その2階と1階との取り合いの部分で黒い外壁を伸ばして裏側を白く塗っています。波板があえて段になって白く塗る部分をつくっていますが、このちょっとした囲われ感をつくる処理はアスプルンドが森の火葬場でしていたものと同じでアアルトはその効果を分かってしてるのでは?と思ってます。⑤をみてもらうとリビングの大きな窓がありますがそこの窓上すぐに天井がくると室内から波板が見えるので波板を少し上に持ちあげるためにこの段差ができています。そうなると別に外壁も上の波板のラインでしてしまったらいいのでは?と思いそうですが、そうすると黒い外壁がとても弱々しく見えてしまって白煉瓦との重さのバランスが取れなくなってしまいます。そういった様々な要素を解消するのが外壁を少し張り伸ばして裏を白くするという部分にでています。そしてこのちょっとの白ですが白い外壁はレンガの壁などの属性と同じであり壁として外と中を区切るというような役割をしているので、ポーチから外を見ると少しの垂れ壁ですがあるなしではポーチに立った時の囲われ感、安心感というものは変わったりします。ほんと細かいディテールの積み重ねですが、素材のあり方、その重さや軽さ、バランスが実によく練られてるのが分かるかと思います。外壁の木を張り伸ばして白く塗るってフェイクの軽い操作のようにも思いますがきちんとその効果が狙われてるとそうならず、むしろ外から見た黒い外壁が重厚感あっていいヴォリュームに見えるようになってますしさすがだなあと思いますねえ。
と、使ってる技術を細かくみていくとほんとによくそこまで考えるなあと感心させられます。
でも大事なのはこれ使ったらおもしろいかなあで選んでるのではなく、もののあり方で自然な状態はなにか?、要素が強く出すぎて建築が強くなりすぎることで自然との相性が悪くはないか?、材料の使い方で転用できるものは転用したら無駄が少ないのではないか?などその人の人柄や設計の哲学の中で選ばれてるという点が重要かなと思います。
こうした感覚、室内にいくとまたいろいろ見てとれるのでまたそれはおいおい書いていきます。さすがに長くなるなあですが、長くなるほど思考が深い建物であり、と言っても難解なわけでもなく居心地がよいという・・・ものすごい考えられてるけどそれをみせるわけでもなくさらっと納まってるようにみえるという、アアルトってそういうとこが素敵だなあと思うんですよねえ。