アアルト自邸について(玄関からリビングに行くまで編)

さて・・・
外からの続きですが、玄関からリビングに入っていくだけの動線上にもいろいろと仕掛けが、ほんとささいなことですがそのあたりの話をします。

①玄関から見える風景、奥がリビング
②リビングから見た場合

①玄関を入ると結構暗めです、暗いので奥の明るい方に目がいきますが視線が斜めにずれてるので庭にばっと視線が抜けたりはせず本棚で視線が止まるようになっています。
②反対方向から見ると、本棚の横に出っ張りがあるのが分かるかと思います。これは垂れ壁で高さが止まっていて箱がぽつんと置かれてる感じ。この出っ張りが一体なんなのかというと。

③出っ張りはコート掛け
④緑が玄関、青がコート掛け、赤がアルテックカーテン


③この出っ張りはコート掛けです。北欧ではよくこうしたコート掛けがちらほら見られるのですが、ここでは収納内にさらっと置かれています。そしてその目隠しもカーテンという・・・大規模な建築をしている建築家の感覚とは思えないラフさです。
④平面で見るとおもしろいのですが、コート掛けようと思うと奥行が必要なので青くらいのヴォリュームがいるよなあ、玄関周りはそんなに広くもないのでリビングに出っ張ってしまえばいいかという割り切りが見て取れます。ただトイレのドアが見えるといまいちなので手前の赤の位置にアルテックのカーテンがつるされてます。
このカーテン、平面図で見ると階段の壁と出っ張りの壁が同じラインに見えるんですが実際は出っ張りの壁(青色)の部分は②の写真でみてもらうと分かりますがずれてます。そのずれた部分にカーテンが入るように計画されているのでこのあたりは現場でトイレのドアが見えるな・・・この出っ張りの壁を少しへこましてカーテン納めようか・・・という現場変更があったんだろうなあと思いますが最初から狙ってたのか不明です。

平面図は『AALTO:10 Selected Houses』 著・写真:斎藤 裕  発行所:TOTO出版 から引用

⑤足元を見るとずれがいろいろ
⑥小口で目地が切り替わる

⑤そうした用途によってこちらの方が落ち着くよね・・・で壁がずれたりするのですが、足元を見ると線が通ってなくてずれてる感じがよく分かるかと思います。このいろんな線が交わる感覚って単調な空間にさりげなくならないので緩やかに変化があり移動できるという感覚がでてきて効いてきます。例えば、もとの図面だと階段の横の壁と出っ張りの壁が同じですがもしその位置だったとするとここの開口は結構狭くなってたかと思います。そして床の割を見ても階段の壁が延長されてたとすると出っ張り壁足元のフローリングの半端な部分が見えなくなってたことになるのでここを通るときの開放感は全然違う感覚だっただろうなあと感じます。たかが床の目地ですが、ただの廊下になるか、廊下とリビングの間みたいな空間になるかの違いがでてます。(青矢印のとこがフローリング目地、赤丸のコート掛けのヴォリューム足元からずれている、奥の階段を見てもらうとそこの壁からもずれてます)
⑥少し幅を拡げたら目地が増えて廊下が広く感じたり、おもしろいもんだなあと思いましたがさらに不思議な扱いをしていたのがリビング壁面のレンガ壁[赤矢印の方]が小口で消えるよう扱われていた点です。なぜこうなるかというと。

⑦カーテンのへこみ
⑧いろいろなずれ


⑦リビングのレンガ壁ならその裏側もレンガ壁でここの壁をどっしりと見せてもよいようにも思いますが、カーテンを隠すへこみが当たってきたり[赤丸のとこ]、そもそも玄関側にそうした重い感じがいらないという点もあったかもしれませんが小口でさらっとレンガを消してます。分かりにくいですが、開口に接してる部分[青丸のとこ]はレンガの目地を壁の面も1個分消してるので雰囲気に合わせて細かな調整がおこなわれてるのが分かります。
⑧平面はシンプルでしたが実際は青のヴォリュームは少しトイレ側にずれてるはずで、黄色が垂れ壁の小口、階段の壁は薄く表現されてましたが実際はオレンジの幅くらいあるのかも?(実際は覚えてないですが)といろいろなずれがこの部分で起きてることが分かります。

⑨階段のディテール
⑩床の目地のディテール


⑨のような階段に小口をまわして踏板の部分は短手で材料を細かく張る、⑩のような床の目地を少しずらして小幅板の床をチャーミングにみせるなどディテールというとこうした分かりやすい納め方についつい目がいきがちになりますが、こうした納まりとは別でその場所にとって居心地のよいあり方はなんだろう?という納まりもあります。
アアルトの建築のなんだかいいんだよねえと言わしめる部分ってぱっと見で分かる部分のセンスの良さもありますが、見えない部分で居場所や重心や流れをつくる技術がほんとに素晴らしいなと思っています。
そしてその技術が時にカーテンでOKというラフな感じでもあり、でもそのカーテンを納めるためにずれができたものが床の目地が見えることになり、床の目地が見えることで廊下の幅が広く感じて、コート掛けのヴォリュームがリビングに出っ張ることでリビングへの視線を絞り、玄関からリビングに至る動線がずれがない空間よりも魅力的になってるという小さい部分の変化が最終大きい部分に関わってるという点がなんともいいなあと感じます。(文章で書くとぐだぐだなりますが、細かい技術がいろいろ入ってるのでその情報量の多さというか、このぐだぐだ間が特徴かもしれません)
でもまあ、目的としてはシンプルでコート掛けがさりげなくあったらいいなあ、玄関からリビングに至る経路でリビングに入った時に庭をよりよく見せたいなあ(そのために空間を絞って開く)といったようなものでやりたいことはシンプルだったりします。ただ目的はシンプルなんだけどそこに至る技術的な部分がさりげなくて主張が少ないのでそのさりげなさが居心地につながってるんだろうなあと思います。
私も設計するときこうした部分ひそかに入れてるんですが、おそらくお客さんは分からないし設計してる人でもよく見ないと分からないと思いますが、こうしてすごいなあ・・・と思ったものをきちんと自分の技術として使えたらなあと思いますわねえ。